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啓介はエアコンのスイッチを入れて、カーテンと窓を少し開けた。 部屋中に充満していた湿った空気が動く。 開いた窓の隙間から月光が細く、床に光を落としていた。 「……あっつー」 窓際で啓介は静かにTシャツを脱いだ。 上半身を覆い隠すものはしっとりとかいた汗以外に何もなく、鎖骨の窪みの少し下には鈍く光るシルバーのクロスが見える。吸い込んだ空気を吐き出すたびに、薄っすらと筋肉に覆われた胸や腹が、上下していた。 啓介は、いつもそうして座っている、とでも言うように普通にベッドに腰を下ろした。 スプリングがギシリと音を立て、膝に肘をつけて、何かを考えるような姿勢で金色の髪をかきあげる。 ――来いよ、と 獰猛な眼が、熱を孕んで、拓海にそう言っているようだった。 拓海の体温は更に上昇し、少しでも熱を冷まそうと、羽織っていたシャツを脱いだ。 剥き出しになった肩を湿った空気が撫でる。 拓海は呼ばれるまま、啓介の前に跪いた。 見上げると、すぐそばに熱の篭もった二つの茶色の眼球があった。 じっと見ていたら、啓介が身を屈めて、拓海の唇にそっと唇を重ねてきた。 最近の啓介は、こうして唇を重ねる――つまり、キスをすることが多かった。それはまるで、これから始まる行為に許しを乞うているいるようにも見える。 男女が交わす、純粋なスキンシップであるキスとは少し意味が違うような気がした。 片側から細く差した淡い月光が、硬いフローリングに二人の影を映していた。 重なった影はすぐに離れた。 キスは触れるだけで、深くなることはない。 啓介の少し節くれだった手が、拓海の温度の上がった頬を優しく撫でる。 そして、慣れた手つきで、ジーンズのベルトを外し、ジッパーを下げた。 エアコンのヴーンという低い音しかしない部屋に、金属の無機質な音が小さく響いた。 啓介の手がもどかしそうにずり下げた下着から、窮屈そうにしていたペニスを取り出す。 それはもう支えが無くても雄々しく立ち上がり、天を仰いでいた。 タラリと透明な露を垂らして、血管を浮き立たせて、開放を強請る。 その様を窓から差し込む月の光が、拓海の目の前に映し出していた。 心臓の鼓動と同じリズムで、ビクビクと脈動しているその血管の中を流れる血液は、拓海の血液と同様、熱を持っているようである。 拓海は、さっき啓介が拓海の唇にしたように、そっとペニスの先端に唇を寄せた。 その刺激に反応して、啓介自身がピクリと蠢いた。片手を根元に沿え、舌を唾液で湿らせて、舐め上げる。舐め上げるたびに啓介のペニスには拓海の唾液が塗りつけられ、ペニスはビクリと脈動して硬度を増す。 そしてペニスが唾液まみれになった頃、唇をすぼめて抵抗をつけて、啓介のペニスを喉元まで咥えこんだ。 溜め込んだ熱までも吸い上げるように、軽く吸引しながら上下に扱く。 「……ぅ」 低く呻く啓介の声は、まるで獣のそれである。 そしてその声に昂ぶっていく自分は、まるで獣に牙を立てられることをこの上なく待ち望んでいるウサギのような気がしてきた。 その爪やその牙が、自分の肌に食い込んで、切り刻んでいくのを、鳥肌を立てて待っているのだ。 頬の内側の粘膜と唾液まみれの舌で包み込んで、啓介の熱を開放するべく快楽を与えると、頭上から聞こえていた啓介の息遣いが荒くなってくるのが分かった。 同時に自分の呼吸まで、荒くなってくる。 拓海はしゃがみこんだままの格好だったので、熱を持ち、立ち上がったペニスがジーンズの硬い生地に擦れて、痛みを伴っていた。 (……もう、……我慢できない) 熱に浮かされた自らの手で、ジーンズのジッパーを下ろし、下着の中から自分自身を取り出す。 そして、啓介のペニスを握っていた手を左手に変え、自分の右手で本能のおもむくままに扱き始めた。 「……藤原!……お前、そのカッコ……すげぇ、ヤらしい……」 切れ切れに頭上から聞こえる、少し掠れた声。 両手も口もそのままの状態で上を見上げると、啓介の視線とぶつかった。 下唇を軽くかんで、切なそうに眉根を寄せた、情欲にまみれた艶っぽい顔。 拓海の与えた快楽が、啓介にそんな表情をさせていることが嬉しくなると同時に、そんな啓介の表情は堪らなく拓海を煽った。 タンクトップからはみ出した拓海の肩を、啓介の大きな手が撫でる。 拓海の肌を伝わって、啓介の熱が伝わる。 「……くっ……もう……出る――」 啓介の呼吸はさっきにもまして早くなり、苦しそうに肩で息をしていた。 「……藤原。もういいから……離せって……!」 拓海の髪をかきあげていた啓介の手が、拓海の頭をそこから引き剥がそうとしたけれど、拓海はその手に抗った。 両腕の上下する動きと啓介のペニスを抜き差しする唇の動きは、シンクロしていた。自分に快楽を与え続けるために、その動きを止めることが出来ない。 啓介の薄っすらとした腹筋がペニスの脈動と一緒に波打つのが見えた。太腿の筋肉がピクリと動いて、足に力が入っている様を視界の端に見る。 拓海の右手は自分のペニスを上下に扱きながら、絶え間なく啓介に快楽を与え続けた。 「……藤原…」 切なそうな低い声と熱い息。 啓介のペニスが出入りし拓海の口内の唾液をかき混ぜる音。 拓海の左手が唾液まみれの啓介のペニスを擦る音。 拓海の右手が自分の先走りをだらだらと流し続ける自分のペニスを扱く音。 全部の音が混ざって、薄暗い部屋には卑猥な音が充満していった。 拓海は、渦を巻いて引きずり込む熱に、身を任せる。 思うままに右手を動かし、そこから熱を開放しようとする。 こみ上げてくる熱さと甘い疼き。 眩暈が――する。 「……うっ!ゴメン……ふじ……!」 啓介の亀頭と幹が一回り大きく膨らんだかと思うと、拓海の口の中に暖かい液体が迸った。 開放された、啓介の熱。 ぴりぴりと舌の表面を刺激する、青臭い独特の匂いのするその液体を、拓海は一思いに飲み込んだ。 「……っ……ふ……ぅ……!」 そして、啓介の後を追うように拓海も自分の掌の中に、粘つく体液を放出した。 放出された、拓海の熱。 拓海も啓介も、激しい運動をしたわけでもないのに、肩で息をしていた。 啓介の胸で揺れる、シルバーのクロス。啓介の上下する胸の皮膚に、チラチラとその影を落としている。 啓介は拓海の汚れた右手を取った。 まだ整わない息のせいで啓介の唇は半開きで、そこからもう熱くない息が漏れている。 そして、おもむろに赤い舌でべろりと舐めた。 「……!」 てのひらを汚した拓海の精液を愛撫するようにべろべろと舐め、それを飲み込むたびに喉仏が上下していた。 そして、すべてキレイに舐め取って、言った。 「お前の熱は……俺に全部よこせ…」 啓介は拓海のてのひらや指の間まで、舌を這わせながら、優しく笑った。 その牙を立てられるのを待っていたウサギは、どうしていいのか分からなくなる。 獣に優しく毛並みを舐められて――一体どうすればいいのだ。 これは単なるゲームだと思っていた。 お互いの体の内に篭もった熱を開放するための、淫らなゲーム。 啓介は、拓海の頬を大きな両手で包んでそっと唇を寄せた。 顔を傾けて、角度をつけて重なる唇。 月光がフローリングの床に落とす重なるシルエット。 チュッと音を立てて、唇はすぐに離れてしまった。 そんな切ない顔をしないでほしい。 そんな優しい瞳で――見ないでほしい。 もう、ゲームではないのかもしれない、と拓海は思う。 認めたくないけれど、これは恋なのかもしれない。 天空高く上った白い月が、窓の隙間から拓海達を見ていた。 熱は去り、しんと冷え始めた胸の中心に、今度は締め付けられるような切ない痛みだけが残った。 END お誕生日おめでとうございます。 あやの妄想をかきたてて止まない、素敵なイラストを書いてくださった若茶様に捧げます。 (2006.3.5) |