脈 -5-


あの男は、藤原のこんな姿を見て、よく性行為まで至らなかったもんだ、オレなら……
オレなら、確実に犯しているだろう……

そんなことを考えている自分にハッとして、その淫らな発想が言葉になってこぼれないように
涼介は乾いた唇を引き締めた。
拓海は2回目の吐精に、腕の中でぐったりしていた。
縛られた身体が痛々しいが、その身体で悶える拓海に涼介は激しく反応した。
「長時間ローターを入れられていたみたいだからな。前立腺の機能が麻痺してないか確かめていただけだ
しかし、アイツにローターを入れられるときも、こんな風にペニスが反応したのか?」
こんな風に攻めるつもりはなかった。
ただ、これは、自分のどんどんと質量を増していく性欲を誤魔化すためだった。
しかし、その言葉は、拓海の中に溜まっている不満、疑問、苦しみ、屈辱を破裂させた。
「……っ、そんな、なるわけないです……殴れるもんなら、殴り返したかった……
アイツ、オレ縛り上げて、オレの話、全く聞く耳持たないで、ジーンズ降ろして
アイツ、汚いもん触るみたいに、手袋して……オレに触れたんですよ
あの、変な機械を身体に入れる時も、とにかく無理やり押さえつけて入れてきたし
あんなもん身体に入れられただけでも苦しいのに、スイッチ入れられて苦しんでる姿……
アイツ、すぐソコに立ってタバコ吸って、笑って、見下ろしてたんです……それなのにオレ、こんな反応なんてするわけない」
涼介の眼はベッドサイドにある灰皿を捉えた。
見慣れないタバコの箱とライターも置かれていた。
達成感に充たされ、タバコの存在を忘れて帰ったようだ。
灰皿には、フィルターまでみっちり吸った吸殻が一本、捻じ曲がって転がっていた。
拓海にこんな仕打ちをしてから薄笑みでも浮かべ『いいカッコだな』とか『気持ちイイだろ』などと 散々汚い言葉を吐いたのだろう。
忌々しさに吸殻にさえ不快感が湧く。

「オレ、すげぇあいつに見下された……」
「大丈夫だ。藤原は、これっぽっちも見下されるようなことはしてないぜ」
「でも、オレ……あんなもん入れられた……男なのに……」
「違う。どんなにアイツが藤原を酷く辱めたり、汚い言葉を吐いたかもしれないけど、
藤原はオレをかばって、こんな目に遭ったんだろ。それを誰が見下すって言うんだよ。オレは藤原を誇りに思う」
「でも、オレ……涼介さんにだって……きっと呆れてる……」
男なのに後ろでイッてしまったから……と言いたいのだろう。
「身体が快楽を掬い取ろうとするのは本能が勝手にする技だ。気にするな。オレは呆れたりしてないぜ
人間は苦痛を快楽と取って極限状態で生き延びようとするし、自分が知らない快楽をいくらでも見つけようとする」

人間というものは、自分が知らない快楽も、身体が意思に反して拾う……。
今なら、あの研究室で聞いた話も理解できる。

――男の身体に欲情したり、男の身体で溺れるって言うのは、毛嫌いしてたら始まらねぇけど、
一度経験してみたら解ると思うけど、絶対癖になるぜ

ふっと胸の内で涼介は笑った。
あんなに不快感を露わにしたというのに、今となっては、逆の心境に立っていたからだ。
男を抱いていけないと誰が決めた?
宗教を信じもしなければ、あがめてもいない自分は何も知りもしないくせに、何にこだわっていたのか?
自分にあるのは、医学と最速理論だけだったというのに……。
本来、分かり合えない世界の話だと思っていたことが、わが身に降りかかり、覚醒すると
今までに何から眼を背け、頭ごなしに否定していたのかと、自嘲するまでになっていた。
しかし、その一方で、理性と欲動のもつれで胸が苦しくなった。
何かをしてしまう予感に襲われているのだ。
助けたい……身体にうけた苦痛の記憶を取り除いてやりたい……という気持ちと
道徳や世間の常識では納得させられない感情、そして哀れみや同乗とも違う感情
この傷ついた身体を自分のモノにしてしまいたい……という気持ちとの境界線とが曖昧になって
自分を抑えられなくなる予感を涼介にさせる。

「あの……もう、オレ身体は、涼介さんが診て、大丈夫だったんですよね……
だったらもう、はさみか何かフロントで借りてきて、紐を切って、オレを独りにしてくれませんか
少ししたらオレ、帰りますから。ここ出る金ぐらい持ってるし、もし心配なら、後で絶対連絡しますから……だから」
「何言ってるんだ?このままここに藤原を独りにして帰れるわけ無いだろう?
藤原はオレの代わりにこんな姿になったんだろ?もしかしたらオレが同じ目に合ってたかもしれないんだぜ」
「でも……」
「でも?でもなんだ?別に恥ずべきことじゃない。恥ずべきことをしたのは、あいつの方だ
それに、藤原は、あいつにこんな姿にされても、性衝動は起きなかったんだろ?
オレが藤原にした行為で藤原が射精したのは藤原の身体が生理的に反応しただけだ
恥ずかしい事じゃないって言ってるだろ?」
「……でも……」
拓海は、物憂い口調で言い澱んだ。

「藤原、どうしたらオマエが受けた精神的傷を癒せる事ができるんだろうな……」
哀切、感傷、憐憫、同乗……そう言うニュアンスをこめずに言ったつもりだった。
「そんな、気を使わないでいいです……オレ……男なのに、男に身体おもちゃみたいに悪戯されて
こんな後ろになんか突っ込まれてる姿、本当は涼介さんに見られたくなかったです……
おまけに、うしろでイくなんて最低だ……オレのこと軽蔑してください。そのほうがオレも楽です」
腕を縛られて、男に弄られ、悶える身体を苦しげに捩じらせながら拓海が吐息混じりに吐き捨てた。
軽蔑された方が楽だなんて人間、いるわけがない。
言葉や態度で本当の気持ちなんて確認なんて出来ないのだ。
ならばいっそ、分ち合うべきだろう。
羞恥、屈辱を与える者、受ける者。
与えた者と受けた者が、傍にいれば、受けた者は、与えた者に憎しみをぶつけることができる。
その存在は必要だと思う。

――いや、ソレはオレの欺瞞かもしれない。
――そう言う大義名分を作って、オレは藤原を犯そうとしているんだ。

涼介は、拓海の腿にそっと手を触れて身をかがめ、拓海の耳元に唇を寄せるように近づいて、こう言った。
「藤原……オマエがオレの前で、こんな女に使うものでイっちまったってことや、
男のオレに弄られて、ココを勃てているが恥ずかしいって思ってるだろ
オマエだけが恥ずかしいんじゃないぜ。ホラわかるか?今のオレのココも、男の反応をしている……
藤原はオレに身体を弄られて勃つんだから解るけど、オレは藤原を弄ってるだけで勃ってるんだ
しかも、オレのココは、藤原の中に入りたくてウズウズしてるんだぜ
なあ、藤原も、本当はもっと気持ちよくなりたいって身体が求めてるんじゃないか?
藤原、よく聞け。アイツの事忘れるために、オレとのセックスも受け入れたらどうなると思う?
このまま、あいつにされたことよりも、オレがもっと凄い行為をすれば、藤原は、受けた傷を少し誤魔化せないか?」
どういうことか理解出来ないでいる拓海に、勘で含めるように涼介は言った。
「ようするに、オレに抱かれてみないか?ってことだ」
心の弱い部分に忍び込むような甘い吐息混じりの、この上ない切ない声で涼介は
自分の硬身を増すペニスを拓海の下半身に押し付けて強請った。

「藤原、ほら……こんなことを提案するオレの方こそ軽蔑されるような人間だろ」
恐る恐る顔をあげ、前髪の隙間から拓海の視線が涼介に向けられた。
「藤原の中はもう、トロトロだぜ。傷つけるようなことはしない。いや、癒されるまではないだろうけど
ここでオレに犯されれば、アイツにされたことも全部ひっくるめて、オレを恨むことに転換できる
いつでも藤原のそばにオレはいるから、怒りを溜めることなくぶつけることが出来るぜ
男にレイプされそうになって、なんとか性行為はされずに済んだ所、助けに来た男に犯されたってな
こうすることで、藤原は怒りの矛先をオレ一本に向ける事ができる
どんな理由だっていい、とにかくオレは藤原を抱く。そうすることで、オマエは自分を責めないで済む
藤原が拒むなら、この腕を解かずに、抱くぜ。それで、オレに無理やり犯された、と思っていい
でも、できるだけやさしく、藤原がヨクなるように抱くから……大丈夫だ。恐がらなくていい……」
とてもとても優しい声だった。
これから『犯す』という男の声じゃない。
拓海は、思ってもない提案に眼を見開いた。
男に淫具を入れられた時は、苦しくて屈辱的で、何もかもが憎悪に変わる行為だった。
なのに、涼介にココを弄られて、自分は恥ずかしいぐらい性急に、しかも女みたいに一方的によがってしまった。
ソレを見て『涼介さんがこんなことになったオレに気遣って、自分が堕ちたフリをしてこんなこと言ってくれてるんだ』
そう考えることは出来ても『涼介さんになら、こんなことをされてもいい』と思ってしまっている自分がはしたなくて……
ココで嫌がらないと、抵抗しないと軽蔑される、と拓海は思った。
「そんな、オレを気遣って、涼介さんがそんなことしなくていいんです!涼介さんまで穢れることはないんですから!
もう、何でもいいから腕を解いて、オレを置いて帰ってって下さい。そんで、オレを軽蔑してください」
叫んでいた。
涙ぐんでいた。
哀れみでこんなことをして欲しくなかった。
「いや、本音を言うとな『藤原の為だ』と理由を作って、藤原を説き伏せてとにかく抱いてしまおうって思ってるんだ
羞恥と屈辱に苦しんでる今の藤原に欲情しているオレは、もっと軽蔑すべき人間だ」
拓海が顔を上げる。
涼介の眼は苦しげに欲情していた。
拓海のペニスをギュウと握り締めてくる。
その手の平はとても熱い。
拓海は腰を引くが、掌もついてきて、もみもみと力を加えたり、ユルユルと執拗にしごかれると、素直な男の反応がおき始めてしまう。
「オマエも、まだまだいけそうだよな。この疼いている身体を、オレの身体で開放してやりたいって思ってるんだぜ。どうする?」
ゴクリと喉を鳴らしたのは拓海だ。
「ほら、またココがこんなに勃起してきた。3回目だぜ。仕方ないよな、ずっとあんなの身体の中に入れていたんだから
辛いんだろう?本当は紐を解いて、オレを帰したら、自分でまた抜くつもりだったんじゃないのか?」
涼介の手の中ですっかり立ち上がり、先端の小さなくぼみから液体を滴らせ始めるペニス。
涼介の指先が、亀頭にそれを塗りこんでいる。
ベタベタになってぬめつく亀頭。
ぬるついた指が今度は弄る場所を探して移動し、クビレを掴み軽くしごく。
くちゅと擦れあう皮と先走りで、再び達してしまいたいという欲求が、拓海のか腹部で沸き起こってくる。
「やっ……」
と、言いつつも、拓海のペニスは涼介の手の中でビクビクと脈動まで始めた。
竿がますます反り返って陰膿の裏が痛いぐらいに引き攣れる
「ほら、苦しそうだぜ。2人だけの秘密を抱き合っちまった方が、解決は早いんじゃないか?
オマエのここは開放を欲しがってることだし、オレも……藤原の中に入りたがっている
本当言うとな、この部屋に入って、藤原からローターを出そうとしたときから、オレはオマエに欲情していたんだぜ
……酷いだろ?あの射精を促したのは、オレだ」
そう言って涼介は拓海の返事を待った。
「……オレに気遣ってそう言うこと言ってるんじゃないんですか?性的悪戯された人間に対する心療ケアとか……」
「医者は治療でセックスするって言うのか?しかも『患者が男でも癒すために己が犠牲となって抱け』と医学書にあったら
オレは即行、大学に退学願いを出していただろう。ソレをやり続けられる医者は尊敬もんだ
オレはただ、オレの意思で藤原を抱きたい、って言ってるんだ
もし、藤原がオレに『襲われた』って大義名分をつけたいならこの拘束された状態で抱いてやるぜ
そうするか?それとも『脅迫された』ってことで、紐を解いた状態で行為に及ぶか?」
指先で弄ばれているペニスは、くちゅくちゅと音を立て、はしたないほど昂ぶっている。
縛られている上に、クビレを指がしっかり握っているので、拓海が身をよじったぐらいでは逃げられるわけもない。
執拗になってくる手淫。
「気持ちよかっただろ……体内からの刺激も……」
囁きも甘さを増して耳に注ぎ込んでくる。
涼介は、どうする?と言ってから拓海の中心部に顔を近づけた。
「藤原がいやだ、と言っても、頷かせたいがな……」
そう言っていきなりペニスをしゃぶりだした。
それと同時に、さっきまでローターが入っていた隙間にも指がにゅうと入ってきた。
拓海の答えを聞かずとも、身体の方が正直に快楽を欲していた。
「っ……ん」
涼介の口の中は声にならない悲鳴が上がるほど、拓海を悦ばせた。
ねとねとと、拓海の体液でしめっっている竿に顔を傾けて舌を絡めて舐める。
亀頭に戻れば、直角に咥えて、クビレをほじくる。
先走りが湧き出て、開き始めるくぼみに尖らせた舌先を差し込む。
しゃぶりついて舐める卑猥な唾液音がベッドの上に湧き上がるように響き、
あまりの恥ずかしい音に、耳を塞ぎたくても拓海の腕は背中にあって塞げない。
涼介の口の中がどんどん熱くなっていくのが、局部から実感できた。
こんなこと、冗談では出来ない行為。
「藤原のペニス、凄いぜ。ほら、こんなに持ち上がって、カチカチだ
ちょっと唇を離せば、尿道からは、先走りがずっと湧き上がってくるのが見える。オマエ、分泌液が多いタイプなんだな
コレだけ凄く感じてるってことだろ?でも、コレは、はしたないとかじゃないんだぜ
身体に快楽が与えられただけの現象だ。コレがたまたま男に与えられた欲情であって、それがおかしいことじゃない」
咥えながら呟く語気と舌の動きが荒々しくなる。
あんなにクールで人を寄せ付けないように見える涼介が、男のものを口に含んでいても、不思議とさまになっていた。
拓海は自分のものを咥える涼介を見ていたが、恥ずかしさに眼をそらす。
いいんだろ?もっとして欲しいだろ?そんな眼で、見上げられたからだ。
そんなの、いいに決まってます……と言い返すわけにもいかず、拘束されている身体に甘んじて、涼介にされるまま感じていた。

拓海の唇が甘い喘ぎがを始めると、涼介は意地悪にペニスから唇を離した。
長い唾液の糸が滴って、むき出しになっているアンダーヘアを湿らせた。
涼介はペニスを握っていた指先すらあっけなく離した。
拓海は、一方的に性欲をかき立てられて、あおられて、ここまで登りつめさせて、放り出されてしまい
逃げ場のない官能はペニスに集中して焦りだす。
鈴口からは止め処もなく噴出す体液が、涼介の言ったとおり、肉眼で確認できる。
たら……たらり……とこぼれていく。
涼介の意地悪な指先は、ペニスを離れ、アナルの深部に忍び込んだ。
数時間前に挿入されたバターと、拓海の先走りと、涼介の唾液でソコもべちょべちょになっていて、
くちゅと音を立てながら、中指は、奥へ入っていった。
アナルの中の指は、いい部分でうねうねと蠢く。
拓海は何の抗議の言葉も言わない。
言えないのだ。
下半身に溜まりつつある快楽、開放するまでに至らない熱が、じわじわと嵩を増すが、足りないのだ。
ペニスを弄ってもらえないから、アナルで快楽を拾おうとしているようだ。
涼介の指先は、異物感を与えながらも、確実に拓海をよがらせている。
「ここが、さっき藤原がイった場所だ。男はみんな感じるんだぜ」
わざと前立腺をほじくるように弄れば、切ない吐息が漏れ、潤んだ瞳が訴えるように投げかけられた。
指を咥え込もうと下腹部に力が入った。
涼介は意味深に眼を細め
「藤原……楽になりたいだろ?イきたいなら抱いてやる。イかせて欲しいなら、抱いてと言え」
リーダーが命令を下すように言う。
こんな姿の拓海を軽蔑したりせず、今まで通り指導するかのようだ。
しかし、静かにだが、喋る声が熱を帯び、目つきが鋭くなって欲情してきているのが拓海にも見て取れた。
涼介の吐息が拓海の腰骨にさわさわ撫でる。
「オマエは悪くない。どんな悪戯をされようがオレを守ろうとしてくれたんだろ
オマエの心と身体が穢れるわけない。オレは、藤原がどんなかっこしていようが、どんなことされようが、好きだぜ」
涼介の声はとても淫らで、とても優しく響いた。
「藤原の、ここもな……」
体内から抜き出した指で、亀頭を包むように握った。
拓海のペニスは涼介の熱の鼓動を感じ取った。
「藤原……このままオレに抱かれろ」
拓海は唾液を一口飲んだ。
それから「……抱いて下さい。早く……イかせて……」と言う儚い声が唇からこぼれた。
その言葉に、涼介は眼を細めたまま頷いた。


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