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――藤原を抱く。 涼介は拓海を抱き起こした。 背中で拘束されている腕が痛々しい。 ――拘束のまま……抱くのか? ――同意をもらったと言うのに? ナイトテーブルに視線をめぐらし、あの男が忘れて行ったタバコの箱から一本タバコを咥え、火をつけた。 かぎなれた啓介のものとは違うスモーク、知らないフレーバーが部屋に漂った。 そして、拓海の背中にくくられた腕を少し持ち上げるようにして「動くなよ……」と命令口調で言いながら プラスティックで出来た結束コードを焼ききった。 眼の前が真っ赤になって溶けていったのは二人の最後の理性もだ。 理性は駆逐され、忍耐は解かれた。 解かれた瞬間に今まで滞っていた血管に血流が流れ、痺れていた感覚すら麻痺していたことを 痺れでもって拓海の中枢に知らせる。 まだすぐには腕は動かない。 涼介はもう、止まらない。 「藤原……全部、脱ごうか」 そう言って拓海の服に手をかけた。 不自然な体位で縛られてたせいで、いきなり解かれても血がよく循環しないせいか、すぐには動かない上半身から、 涼介が幼い子供の脱衣を手伝うかように丁寧にトレーナーを脱がし、膝で絡まっていたジーンズと下着も脱がした。 拓海は照れながらも、おとなしく脱がされていた。 涼介は拓海を全裸にして抱きしめ、体中を掌でそっと撫でた。 「腕が冷たいな……随分長い時間……耐えていたんだな。痕が……少し付いちまったみたいだな?」 痛々しく紐のあとが残る腕を涼介がさすると、ゆっくり血が巡り始めるのが拓海の脳に重たく届いた。 縛られて感覚がなくなっていた腕のように、心までどこか麻痺していたようだ。 温かい腕で抱きしめられて、本当は、凄く辛かった、恐かった、悔しかった……独りで耐えようとしていた強がり 一生、抱えていかなければならないと思っていた、屈辱と羞恥。 それに囚われないようにもがけばもがくほど肌に張り付いていた苦しい想いが 風化したペンキのようにポロポロと剥がれ落ちていくのを感じた。 「オレ、もう涼介さんに軽蔑される……プロジェクトにいられなくなる…… オレ、もうこのまま何もかもダメになるって思ってた……誰かに助けて欲しくっても、助けてって言えなくて、情けなくて……」 「バカだな。オレは藤原にこんな眼に遭わせた男よりも酷いヤツなんだぜ 助けに来たって言うのに、藤原の身体に惑わされたダメな男だ いいか、藤原は絶対自分を責めるな。責めるならオレを責めろ。 オレをいくらでも軽蔑してもいいぜ なぜなら、もうどんなに藤原が抵抗しても、やめる気持ちはゼロなんだからな……」 そう言って、涼介は自分もシャツとスラックスを抜いて、拓海の上に重なった。 この瞬間を待ちきれぬ気持ちが慌てて服を脱いだせいで、涼介の黒髪は酷く乱れた。 頭部を軽く振って、髪の乱れを直す裸の涼介を見て、この人に抱かれるんだ……と拓海は漠然と思った。 どんなに理性的であろうとする男も、蠢惑的な背徳の誘惑に打ち勝つことが出来なかった。 この瞬間が待ち遠しくて、待ち遠しくて、気がはやる。 仰向けに寝かせた拓海の膝を抱えるようにして両足の付け根に向かう。 己のそそり立つペニスを手にし、拓海のそこにある小さな穴にペニスの先だけをあてがう。 バターでぬめり、互いの体液で湿ったソコは、入り口の僅かな抵抗を過ぎれば、塊のくびれまでツルンと吸い込んだ。 「っ……ぁ」 拓海は苦しげな吐息を吐くけれど、収まった中はまだまだ吸い込むのを止めようとはしない。 涼介が、腰を押し出すような姿勢に変え、己を拓海の奥へ沈み込ませた。 ぐしゅぐしゅくちゅ……と拓海のソコはその熱い塊を受け入れた。 容易に、そして滑らかに塊を吸い込んで、涼介のモノは拓海の体内に留まった。 数時間前、屈辱に耐えていたであろう唇は、新たな容積に犯され、何かに救いを求めるかのように開き、 今はただ淫らに赤い舌を覗かせて熱い息を吐いている。 異物を挿入されていたソコは、比べ物にならないくらい大きなものを、しかし暖かく柔らい肉体をくわえ込んでいた。 「藤原……こんなこと、望んでいなかっただろ、本当は……。オレを、一生責めていいからな」 涼介は自分の、これ以上なく膨張した杭を拓海の身体に埋め込み、 少しずつ、そして確実に激しさを増すように腰を前後に揺すりながら囁き続けた。 結合した部分がリズムに合わせていやらしく鳴り始める。 拓海は首を振る。 「違う……そんなこと言わない、で下さい。涼介さんにこんなことさせてるのは……オレだから……」 と泣き声で言うけれど 「バカだな……藤原を助けに来て、オレが襲ってるんだぜ。オレを恨んでもおかしくないのに何でそんなこと言うんだ? オレは、オマエに欲情して、したくてしてるんだからしょうがないじゃないか?」 穏やかな言葉をつむいでいるが、腰から下は、はしたないほどに振っている。 ぐちゅぐちゅ……ぐちゅ……。 クールな表情は基本的に変わらないのに、目元は赤らんでいる。 涼介は、熱い視線をたたえ、男の膝を抱え、腰から下を激しくグラインドする姿も様になる。 体内は欲情で荒れ狂い、理性の欠片も消滅し、ひたすら拓海と接続している部分の感覚を研ぎ澄ましていた。 奥へ入りたがる男根、それをわずかばかりの小さな穴を精一杯開き 受け入れ、飲み込む肛門はどんなに淫らでも、誰に蔑まれるものではなかった。 ペニスから漏れた滴でソコは淫らに鳴り、もっと欲しいと締め付ける。 包み込むような粘膜にあおられる腰は止まらず、抜いては引いてを繰り返す。 ぐるりとまわしては深く深く突き刺す。 拓海は息を殺しながらも必死でついてきた。 あまりに欲望がとどまらなくて、拓海を壊してしまう不安を抱き、涼介は 一番奥までペニスを突き進めると、そこで息を吐いて動きをやめた。 だけど、もっともっと中に入って、深く結合したいという欲が涼介をそそのかす。 ぐりぐりと腰を左右に振り、より奥へ挿入すれば 一瞬、どこまででも入っていってしまいそうで、涼介を不安にさせるほどだった。 拓海も「ダメ……もう、そんなに入らない……」と苦しげに訴える。 「そうだな……これ以上藤原とはくっつけないらしい」と言って 腰骨が当たるほどピッタリと根元まで入るほど結合し、下半身の動きを止めた。 ずっと眼をつぶって、そのこみ上げてくるいまだかつて味わったことのない甘い責め苦に揺らされていた拓海は、 動くことをやめてしまった涼介に物足りなさを感じたのか、不安を感じたのか、そっとまぶたを開けた。 欲情しながらも、慈しみの黒い瞳が、長い前髪の間から、拓海を心配げに見降ろしていた。 「……オレを恨んでないのか?」 拓海は首を僅かに振って、微笑んだ。 「涼介さんはオレを助けようとしてくれた大事な人です。それに、今、オレが壊れないように、こうして守ってくれてる」 「藤原……」 涼介は覆いかぶさるように拓海の胸の上に重なった。 目元の傷に唇で触れた。 「守ろうとして、こんなことしてるんじゃない。こうしたくて、止まらなくて、藤原を抱いてるんだ」 うん……と湿った声が頷く仕草と同調した。 「藤原はオレのために殴られてくれたんだな……オレのためにこんな眼に合って……」 「涼介さんだって、オレを助けに来てくれたし……オレを……こんな風に……」 「もう、何も言うな……」 二人で背徳を背負ったことを解っていた。 「でも……」 「黙れって言っただろ」 そう言って、涼介は拓海の頬に両手を置いて、手の中に顎を収めてから、唇を寄せて塞いだ。 そっと、合わせるだけのたどたどしいキスから始まった。 気がつけば、コレが二人が初めて交わすキスだったからだ。 僅かばかりの照れくささを感じながら、可愛らしい触れ合いから始まって 触れては離れて、離れてはすぐに柔らかい接触を求めて唇を重ねあう。 柔らかい肉が、自分以外の柔らかさを求め合う。 いくら唇を重ねても足りないぐらいだ。 果てしない甘美が溶けていくようなキスに、終わりが見えない。 なのに、ふとしたときに、舌先が触れただけでも照れてしまうなんて、どうかしている。 まるで初恋の成就みたいだ……と涼介は思う。 こんな男同士が裸になり、こんな常識からかけ離れたセックスをしているのにもかかわらず、唇を合わせる照れくささは どんなにアブノーマルな状況でも、純情な気持ちがあれば幸福感がこみ上げる。 そして、この先、もっとしたいと強請りたいことは、唇を合えわせていれば、わかってくる。 涼介は、穏やかでやさしくて強い拓海の精神が壊れることを許せず、自分だけのモノにしたくて 拓海は、自分を支え、導いてくれる涼介の存在は何があっても失いたくないもので。 だから、全ての精神が欲しくて、全ての肉体が欲しくて、どんな部位でも接触していたかった。 深く、激しく、熱く、キツク、どちらともなく唇を開き、舌をも求め合った。 吸う、絡める、差し出す、飲み込む。 舌が、唇が、唾液が絡みあうほど、放置されている下半身は結合しているだけという責め苦に耐え切れず、 自分達をおいて触れ合っている唇に嫉妬するように、はしたなくもムズムズと強請り始めてくる。 涼介は拓海の中で異常なほど膨張したペニスをもてあまし、僅かに腰を揺らす。 拓海も内壁をひくひくと締め始める。 「痛いか?」涼介が聞いた。 拓海は首を振って 「平気……です。アイツのしたこととか、言葉のほうが痛かった 今は、涼介さんがいっぱいオレの中に入ってて、すげぇ……気持ち、いぃ……」 グチュグチュいう体内からの猥褻な音と、搾り出すように拓海の声が身体を通して涼介に伝わった。 涼介は抜き差ししながらも拓海をいたわるようにペニスを袋ごと握って、しごいて揉む。 肛門で涼介のペニスをくわえ込んで、ペニスは涼介の掌で握られて、訳が解らないぐらい拓海は喘いでいた。 我を忘れるぐらい絶頂を求め「涼介さん、もっと……もっとして……」と拓海が喘ぎだす。 涼介のペニスは拓海の体内でドクドクと脈動は増し、拓海の体中に巡る脈動とシンクロする。 体内を通して、涼介のリズムが脳にまで届く。 鼓動に合わせて視界が明滅するのが見えた。 解かれた腕は倦怠を帯びしばらく自由が利かなかったが、激しい鼓動で体中に熱い血がめぐり、 少しずつ身体中を支配していた痺れが和らぎ、いつしかスムーズに動くようになった腕は、涼介の背中に絡みついた。 もう、この部屋には残酷な笑みもなければ、あざ笑う視線もない。 あるのは、互いを欲する身体と、欲に溺れた唇と、慈しむ眼だけだ。 そして体内にあるのは冷たい玩具ではなく、紛れもなく悦楽を求める暴れ狂う涼介のペニス。 欲情した涼介に抱きすくめられ、拓海を求める言葉が降り注ぐ。 かき回され、揺すられて「オマエの中に出すな……」 そう、煮え立つ声で囁かれた瞬間、体内に涼介が大量にそそがれた。 その衝撃でベッドから拓海の腰が浮き、涼介を受け入れていた入り口がひくついて、二人を繋いでいる部分から液体を漏らした。 絶頂直前だった拓海のペニスは、涼介の手でしごかれて、その中で破裂し、指の隙間から拓海の腹の上にポタポタと体液をこぼした。 どんなに体内に射精しようが、どんなに腹の上に己を吐き出そうが、二人がべとべとに汚れようが 身体の中に残っていたどんな異物感も不快感も、キレイに忘れさせるひと時だった。 「あの……涼介さんが、オレを軽蔑しないで抱いてくれたこと、忘れません。感謝します」 「何言ってるんだよ感謝されるようなことなんか、してないだろ?レイプだって訴えられても可笑しくないことをオレはしたんだぜ」 「でも、あの男はセックスこそしなかったけど、オレにしたことなんてレイプなんてもんじゃなかったです あいつにされたことは、何もかもが屈辱だけです。涼介さんとの……は、オレを守ろうって思ってくれる気持ちがあって、 なんか、すげぇ幸せを感じましたたとえ、同情だけでも、嬉しかったです。オレのために、こんなことさせ、て…… 涼介さんだって、まさか男を抱くなんて、それも同じチームの男を思っても見なかったことですよね ……オレ誰にも言いませんから、って、言えるわけもないんですけ、ど……」 くすっと涼介は笑う。 『もう気にするな』と言っても、何度も『ごめんなさい』と謝ってくる子供みたいだと、思う。 「藤原は本当にバカだな……って、もう、何度も言ったけど、わかってないみたいだな。 オマエの心の傷を癒すためだけで、男が簡単に欲情すると思うか? 男は野蛮に見えてデリケートなんだ。それに哀悼だけでペニスは立たないぜ それでもオレが哀れみで藤原を抱いたって言い張るなら、想像してみろよ 藤原の友達が、もし今のオマエと同じ目に合ったとして……藤原はこんなこと、ソイツにしてやれるか?」 「そんな、の……ムリ、です……」 だろう、と涼介は裸のまま拓海に笑いかけた。 そう言うことだ、と付け加えて、抱きしめて暖かなキスをした。 今も体内には涼介の一部が入った状態だった。 二人は、互いの生暖かい体温と同じ温度になった狭いベッドの上で、悪戯に肌をふれあい、朝までの時をやり過ごした。 翌朝、時はビジネスマンの出勤時間のピークなのだろうか、 壁一枚向こうの廊下は騒がしくドアの開閉音とともに、せわしない足音が行きかう。 二人は明け方ごろに浅い眠りについていたが、そのざわめきにどちらともなく目覚め、 「おはよう」「おはようございます」なんて言葉を交わす早々 「一緒に入るか?シャワー……」なんていたずらっ子のような涼介の提案に、拓海は慌てて拒否をした。 「でも、だるいだろ?」 その涼介の言った意味、身体の中にある不本意な疲労を、一人で入ったシャワーで、拓海は知った。 拓海は昨晩のうちに、家に連絡をいれ、朝の配達も、仕事も、休暇を申し入れていた。 涼介にそう薦められたからだ。 その意味も、顔の傷を慮ってと誤解していたが、それは違うんだと、理解した。 交代でシャワーを浴びた。 バスルームの前でタオルを巻いた身体ですれ違う時、異様に照れたのは、 ベッド以外で顔を突き合わせるのが初めてだったからかも知れない。 拓海は眼を合わせられず、濡れた髪を乾かすこともせず、せっせと身づくろいを始めた。 ――藤原、次はいつ会う? 涼介は着替えている拓海に、思わずそう言い掛けて、口を閉じた。 「え?……今、何か言いましたか?」 乱れたベッドに腰掛けて、シャツを被った拓海は顔を上げた。 「いや、別に何も言ってないぜ」 そうですか……と言いながら、ベッドから立ち上がった拓海は最後に靴をはいた。 このまま秘密を握り合ったことで、セックスをする関係を継続させるのは脅迫にも似た関係にもなることがある。 涼介はそう思ったから、次の約束を交わさなかった。 もしかしたら『次』を匂わせられなかったことにホッとしているかもしれないし、 後になって、昨晩の事を『過ち』だと後悔するかも知れないからだ。 ――今は少し心の整理をさせるべきだ ――藤原がオレを忘れられず、本能で欲してくれたら……そのときは、もう、逃げ道など与えない 拓海の中に包まれた余韻をペニスに感じながら、涼介はそんなことを考えていた。 チェックアウトのビジネスマンの陰に隠れ、拓海はホテルから先に出て、指示された駐車場に向かった。 「一人で帰れます」そう言ったのに「無理をするな。家まで送る、送らせてくれ……」と返されたからだ。 拓海は、ホテルの裏手に回り、渡されていたキーでFCに乗り込んだ。 助手席には自分の携帯が落ちていて、拾い上げて開けば、いきなり自分の痴態が写る液晶に 涼介がコレを見て、助けに来てくれたということが解った。 拓海は慌てて削除した。 涼介は宿泊費を支払って戻ってきた。 携帯を握っている拓海を見て「削除したか?それを消したら、もう、何もなかったことになる」と言った。 ――それは、オレと涼介さんの事もですか……? 拓海はそう問いかけることができなかった。 |