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獣のように四つんばいで、後ろから男のペニスを突き刺され、揺らされ、されるがままの姿。むき出しの下半身が月明かりのせいで白く浮き上がるように見える。 拓海をただ抱くだけの男達と、貪欲に彼らを受け入れ、そして体一杯に満ちた悦楽に目の焦点も合っていないような拓海。 あのビデオテープと同じように見てはいけない物を啓介は見てしまった。 ――求める拓海―― 口内に後から後から溢れてくる唾液は、血の味がして生臭い。鼻から抜ける呼気も同じ香りがして、啓介は闇の中そっと眉をしかめた。 覆いかぶさっていた男が果てると、あのビデオと同じようにさっさと着衣を整えて、立ち上がった。 開放された拓海は、はぁはぁと肩で息をしながら、くたりと木製のベンチの上に横たわってる。 力なく投げ出された細い太腿。その合間にあるペニスは、力の入らない体とは正反対で、ぴんとそそり立ち、先端からは銀色の露が糸を引いて垂れていた。時折ひくひくと蠢き、そのたびに垂れた細い銀の糸が、蜘蛛の糸のように伸びる。 その姿を見下ろす涼介の横顔は、うっすらと微笑んでいて、月光に照らされた影が頬に落ちていた。青白い月の光を受けて微笑む涼介の横顔は色を失った死人のように白い。その顔中で、両端がつりあがった唇だけが充血しているように赤かった。 「……ありがとう。もう、下がってくれ。」 赤い唇で涼介がそう言うと、拓海を犯していた男達は顔を見合わせながら、その場を離れた。 男達が駐車場へと下る道へと歩いてきたので、啓介はとっさに木の陰に身を潜めた。男達は啓介に気がつかずにすぐ横を通り過ぎた。 ふわりと空気が揺れた。拓海の汗のにおいがしたような気がした。 男達は一言も発しない。無駄口を叩かない、そんな様子からおそらくこういう事で金をもらっているヤツらなのだろう。そして、涼介が彼らを雇ってるのだろう。 視線を戻すと、東屋には拓海と涼介の2人が佇んでいた。 横たわる拓海と、腕組みをして見下ろす涼介。首を傾げて見上げ、強請るような表情の拓海とそれを恍惚とした表情で笑って見下ろしている涼介。 拓海は、ゆっくりと自分の足を開いた。月の光に照らされたその様相は、月下美人の花のようだ。 足の間で身を起こしているペニスがめしべ、ゆうるりと開いた太腿はまるで花弁。顔を寄せれば甘い蜜の香りさえしてきそうな、美しく官能的な絵を見ているようだ。 花の中央のめしべを、拓海は自分の手で握った。蜜の香りが濃くなる。眩暈がしそうだ。 酔ったような顔で涼介が口を開いた。 「……お前は、誰でもいいんだなぁ…そんなに乱れて、気持ちよかったのか?」 拓海は自分の性器を握ったまま答える。上下に扱きたいのをこらえている様に、もどかしい顔。 「ちが…ちがいます……。俺が本当に欲しい、のは……」 そこまで言いかかけて続きを涼介がさえぎった。地を這うように低い声。 「……違わないだろう?通り過ぎた車のエキゾーストを啓介のFDだと思って、期待していたんだろう?啓介がここに来るのを…。ハチロクを見つけて、ここまで登ってきて欲しかったんだろう?」 啓介は息を潜めた。そして自分の気配が闇に紛れてしまうようにと願った。今ここで2人に見つかってしまうことだけは何としても避けたかった。 涼介は横たわる拓海の傍らに、お姫様の手にキスをする王子のようにうやうやしく跪いた。そして、手を伸ばし拓海の顎をぐいと掴み、拓海の頭が仰け反るように押さえつけた。 「…まだまだ足りないんだろう?…本当にお前は強欲だな。…拓海。」 拓海はうつろな目に涙を一杯に溜めてふるふると頭を振る。訴える熱の篭った眼差しが涼介に蜘蛛の糸のようにからみつく。しかし、涼介はなおも続けた。 「お前が本当に欲しいものを、欲しいと口に出すまでは、……あげないよ。」 拓海は涼介の手で顎を押さえられたまま酸素の足りない魚のようにぱくぱくと口を開閉して呼吸していた。拓海を見下ろす涼介の視線もまた、ねっとりと絡みつくように拓海の体を撫で回す。 涼介の口元はうれしそうに薄っすらと笑みを湛えてはいるが、眼は笑っていなかった。むしろ、苦しむように切れ長の眼を細めて、眉根を寄せている。数回瞬いた睫が、頬に影を宿していた。 「…あ…オ、オレ……」 自分の性器を弄びながら拓海は何かを話そうとした。その言葉の先に続くのが、拓海が本当に欲しがっているもの。おそらくは、目の前で情欲の色を隠しもせず拓海に向けている涼介なのだろう。 啓介はそこから離れる事もできず、耳を塞ぐ事もできず、辺りに生い茂った木々のように動く事もできず闇に紛れてただ伺っていた。 「オレ…もう、欲しくて欲しくて…我慢できな…い、です…」 涼介に顎を押さえられ、服従させられたような格好なのに拓海は全く抵抗しようとしない。それどころか、そんなことはお構いなしに、自分のペニスを握った手を上下にゆっくりと動かし始めた。垂れ流し放題の先走りの露で十分に濡れたペニスの皮膚が擦れるくちゅくちゅという音は、啓介の耳にまで届いた。 いつから拓海のペニスはあんな状態だったのだろう?同じ男だから良く分かる。開放してもらえず、焦らされたままの状態が続く事が、どれだけ苦しいか。 その状態が続けば、回りの状況がどうであろうと自分の手がそこに伸びてしまうのは同じ男である啓介にも手に取るように分かった。 「お前が欲しいのは、俺じゃなくて……啓介、だろう?」 涼介の口から出た言葉に、啓介は飛び上がりそうなほど驚いた。思わず足に力が入ってしまい、足元の腐葉土がじゃり、と鳴った。昆虫のような、湿った土の匂いが鼻につく。 何故、ここで、この流れで俺の名前が出てくんだよ? 急に自分の名前を呼ばれて驚いた啓介の心臓は早鐘を打っていた。 拓海は自分のペニスを握っていた手を、離した。またしても果てる事を妨げられたペニスは、恨めしげに脈打って、また透明な露を1滴零した。拓海は涼介に首を締められるような格好のまま、眼を見開いていた。 実際、涼介がそのまま手に力を込めれば拓海の首を締める事になる。でも、拓海はその手を除けようとはしなかった。 「違います…。俺が欲しいのは…」 拓海は恥ずかしそうに目元を赤らめた。こんな状況で、あんな格好で、まだ何を恥ずかしがっているのだろうか。 「啓介、じゃないのか?」 涼介が意地悪そうに目元を歪めた。 「違います!……涼介さん、…です。」 目元の赤みはぱっと頬全体に広まった。涼介の名前を口にするだけで初心なほど顔を真っ赤にして、涼介の顔を見上げるその表情は、夜の峠で何度も眼にした。 アニキは何をしたいんだろ…?あの表情が見たいが為だけに、拓海にあんな事をさせたのだろうか? 血を分けた兄ながら、涼介の考えている事は、啓介にとってはさっぱり分からなかった。 涼介は拓海の返事を聞くと、満足げな表情でゆっくりと背をかがめた。そして、顔を交差するように唇を重ねる。 唇が重なった瞬間、拓海は涼介の首に手を回した。 2つの影が重なった瞬間、むき出しの拓海のペニスが嬉しそうにぴくりと跳ね上がった。銀色の糸を垂れて。口付けは堰を切ったように深さを増し、2つの唇の間で絡み合う唾液まみれの2つの舌が見えた。 拓海に覆いかぶさる涼介の前髪は垂れ下がって目元を隠し、唾液を啜りあう水音に合わせて揺れる。拓海の腕はもどかしそうに涼介のシャツの背中の生地を摩ったり掴んだり、涼介の後頭部の髪の毛に指を絡ませてたりして、涼介を求めていた。 「……んん……ぅ…。」 唇を交差する合間に、苦しげな拓海の呻き声が漏れる。そして、拓海の体もまた涼介を求めていた。 拓海はキスだけで切なげに腰を左右に捩って、太腿をきゅっとすり合わせるように閉じたり、また緩めたり。屈めた涼介の背中が動くと、それに煽られるように拓海は腰を揺らす。 白い体の中央にはそこだけ紅く張り詰めた拓海のペニスがあった。それは涼介を求めるようにビクビクとひくつく頻度も角度も大きくなって、それを見ていた啓介の背中にも悪寒に似たぞくぞくとした刺激が駆け上がる。 それと同時に湧き上がる衝動。 目の前で惜しげもなく晒されている肌や、刺激を求める体に触れてみたという激しい衝動が、啓介の胸の内で形を成し始めていた。 拓海の唇や唾液はどんな味がするのだろう? 拓海の肌はどんな手触りがするのだろう? 自分が触れたらどんな反応をするのだろう…? 前から抱いていた拓海への興味は、やがて膨れ上がってはっきりとした輪郭を持つ衝動へと姿を変えた。 衝動が血流を促す。胸の辺りから臍の下をどろりと通って腰の奥に血液が集まってくる。そして、腰の奥からペニスへと向かい、どくどくと流れる。啓介のペニスもジーンズの生地の下で、欲望を持つ形へと姿を変えつつあった。 貪るだけ貪ると、まだ足りないといった名残惜しそうな表情で、涼介は拓海の唇を開放した。離れた唇はぬらぬらと唾液で光っていて、月の明かりを反射していた。涼介はその1滴も逃さないといったように、ぺろりと舌なめずりをした。 拓海は仰向けのまま胸を上下させて喘ぐように呼吸していた。しかし、手は涼介のシャツをしっかりと握ったまま。眠りに落ちてもなお母親の服を握っている子供のようにも見える。拓海はそのぬくもりが欲しいのだ。涼介のシャツに包まれたその内側の、肉体の温もりが。 赤子が母の温もりなしでは眠れぬように、拓海もまた涼介のぬくもりが欲しいがために手を離さない。どんな事をされても離そうとしなかった。 「本当に、俺が欲しいのか?」 涼介が執拗に繰り返す同じ質問に、拓海はこくりと頷いて答える。恥ずかしそうに俯いて、上目遣いで涼介の瞳を見つめていた。 「啓介じゃなくて?」 拓海はふるふると首を横に振って、また、涼介を纏わるような眼で見上げた。そして、涼介のシャツの生地をぎゅっと握った。 「じゃぁ…啓介に何をされても、大丈夫なんだな?それでも、俺が欲しいと言うんだな?」 ぎくりとした。 涼介は、啓介がそこにいて初めから見ていたのをまるで知っていたかのように言葉を紡ぐ。こめかみを冷や汗が伝って落ちていった。落ちる汗とは反比例するように下半身が熱くなる。脈打って開放を強請る。 「…え?」と拓海の顔色が変わった。しかし、涼介の眼の奥を再び覗き込んで、「はい。」とだけ答えた。 しばしの沈黙の後、涼介の唇が動いた。乱れてしまった前髪の奥、夜と同じ色の瞳がまた細まる。何かに苦しんでいるように歪む横顔。 「啓介、もう出て来い。」 凛とした口調で啓介を呼ぶ涼介の声に、拓海は目を零れんばかりに見開き、啓介は全身の肌という肌が粟立った。 あぁ、やっぱり逃れられない、と啓介は思った。 |